ひねもす建築|法隆寺《大講堂》屋根葺替え工事
住宅をリフォームするのと同じように、改修工事が必要なのは国宝も同じ事。
今回は2011年3月に2年間の修復工事を終えた法隆寺《大講堂》のお話です。
法隆寺《大講堂(だいこうどう)》は、経典の講義など仏教の学問を僧侶が研鑽したり法要を行う施設で、西院伽藍の一番奥に位置しています。現在の大講堂が建つ位置には当初食堂(じきどう)が建てられており、後に講堂に用途変更したと考えられています。しかし前身の建物は925年に落雷によって焼失、その後990年に再建されました。当初間口は8間でしたが後世に西庇が増設され、元禄の修理の際には西庇を利用して8間堂から9間堂へ改修され、現在の姿となりました。
(写真:改修前の東側入母屋)
(写真:改修前の瓦状態)
前回の大修理は昭和13年。南側(正面)の屋根を新しい瓦で葺替え、その他屋根面は鎌倉時代・江戸時代の瓦を再利用して葺いていたが、北側の屋根は特に日当たりも悪く常に湿っている状態で、凍害により瓦は損傷し、葺き土の劣化によって瓦がずれ、雨漏りの恐れが出ていた。その他軒廻りでは雨漏りによる腐朽、塗装の剥がれが見られたと言う。大講堂には国宝の薬師三尊像が安置されている。斯くして70年ぶりの屋根葺替え工事が進められました。
法隆寺《大講堂》は横幅9間、奥行き4間と、法隆寺の建造物の中で最も面積が大きく、極めてシンプルで美しい建造物です。飾り気のない外観ながらも堂々とした存在感や威容感が感じられるのは、この建築物最大の特徴である屋根構造によるものだと思われます。
(写真:改修前の大講堂)
(写真:大講堂の内部)
天平時代まで屋根勾配は中国風の緩い屋根勾配が主流で、平瓦の上に丸瓦を置く本瓦葺きは、緩い屋根勾配では雨漏りが起こりやすかった。また時代によって生活様式も変わり、風雨を防ぎ、強い日差しを遮るように一段と深い軒を要望する様になった。雨漏り対策の為に屋根勾配を急にすると、軒先の高さは下がり、深い軒にすればするほど、軒先の高さは下がってしまうのです。
『雨を受ける屋根は急勾配で、建物より外の部分になる軒先の勾配は緩い』・・・そんな2点を解消する屋根が、日本で考案されたのです。
(参考断面図)
(写真:大講堂軒の出)
緩い勾配の屋根ベース(垂木)の上に、急な勾配の屋根を造る《野屋根(野小屋)》と言うアイディアだ。また、緩い勾配の屋根ベースと急な勾配の屋根ベースの間に出来る空間に、桔木(はねぎ)と呼ばれる太い材を差し込み、本屋根の重量を梃子(てこ)の原理で、軒先をはね上げる力に変え、深い軒の重量を支える工夫もされる様になり、今まで奥行き2間までの建物しか建築できなかった所、奥行き3間以上の建物も建築出来るようになったのでした。
法隆寺《大講堂》は『野屋根構造の建物』として現存している最古の建物なのです。
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